パターの長さにはルールによる制限がありますが、実質のプレーに影響することはありません。
ただしパターの長さが有利に働いていると理解されてしまうと、形状以外で規制されていくのが現行のルール改正です。
今回はパターのルール改正の変遷を紹介していきます。
パターの長さはルールで定められているけれど意味はない?
パターの長さはルールによって定められています。
ゴルフクラブの長さの単位はインチで、パターの長さも同様にインチ表示です。
長さに上限はありませんが、下限は18インチと決められています。
日本人の多くはセンチで馴染んでいるので、18インチがどれほどの長さなのかは実感することができないかもしれません。
メーカーやモデルによって違いはありますが、一般的な9番アイアンの長さが36インチですから、その半分の長さがルールで定められたパターの長さの下限となります。
18インチをセンチで換算すると45.72センチなので、一般男性の膝の辺りがグリップエンドになり、脛の辺りでグリップを握ると想定されます。
パターの構え方は自由とはいえ、そんな前屈でロングパットができるとは思えません。
自分の基準に考えると短すぎると思えますが、小学生以下のジュニアであれば、18インチのパターが極端に長いというわけではないのです。
もっとも、このルールが定められたころは、ジュニアをゴルファーの対象にはしていないでしょうから、18インチ以下のパターを使っていたい人がいたのかもしれません。
ルールによるパターの長さはジュニアゴルファーもカバーできる
先ほど説明したように、ルールによってパターの長さの下限は決められていますが、上限は定められていません。
タイガー・ウッズと並ぶレジェンドのフィル・ミケルソンは、短尺パターの使い手として、前屈みのフォームでパッティングをしています。
変則的なグリップの握り方はしていますが、左手は膝の位置で握るため、かなり窮屈な前傾姿勢をとっています。
ただミケルソンの身長は190センチもあるので、使用しているパターの長さは32インチでも相当短く見えているだけなのでしょう。
もっともその32インチは平均的な長さと比べると2~3インチ短いので、短尺パターとされてもおかしくありません。
このように使い手(ゴルファー)によって、長さの基準は変わるわけです。
小学生以下のジュニアゴルファーには18インチが合う場合もありますし、32インチのパターが短いと感じることもあります。
そもそもパターの構え方は自由度が高いので、身長と前屈の角度によっては、同じ長さのパターでも「短い・長い」の感じ方は違ってくるはずです。
ルールでパターの長さで上限を決めなかった理由とは?
ルールでパターの長さに上限を設けなかったのは、制定時に長さが有利に働くとは考えていなかったからかもしれません。
ところが喉元にグリップエンドを付けて、長いパターを振り子のように操る打ち方が大流行しました。
難易度が高くなったグリーンによって、多くのプレーヤーがイップスとなってしまったことから、より単純なパッティングを求めた結果がこの打ち方だったようです。
一部から長尺パターについて「簡単すぎる」との批判が起こったようですが、伝統的にパターの長さに上限を定めていなかったことから、ルール改正はアンカリングの打ち方を規制することになります。
基本的に構え方や打ち方は自由とされてきたわけですが、実はサム・スニードがボールを跨いで股間を起点にパターを打っていたところ、「下品」という理由で打ち方の規制がなされたことがあります。
その前例に則して、パターの長さではなく打ち方で規制を設けたと考えられます。
ちなみにサム・スニードは歴代最多82勝のプロなのですが、2019年ZOZOチャンピオンシップでタイガー・ウッズがその記録に並んだことでも有名な往年の名選手です。
パターのノーズの長さをルール変更したのはどうして?
パターのルール改正は、ある意味で「ご都合主義」のところがあります。
強い選手が現れると、必ずといって良いほど適当な理由をつけて、そのパターを使えないようにしているように見えます。
タイガー・ウッズもその洗礼を受けた1人です。
タイガーのパターと言えば「スコッティ・キャメロン」が有名です。
しかしタイガーがプロとしてメジャー初優勝した1996年にはロングノーズのスコッティ・デールを使っていました。
そこでルール改正が行われ、ノーズの長さを5インチ以下と定めたわけです。
このノーズの長さに特段の優位性があったとは思えませんが、タイガーのパターは違反クラブとなってしまい、ロングノーズの長さをルールに沿ったものに変えなくてはならなくなります。
同じようなものでは、フェースの長さの規定を変えたこともあります。
残像をイメージしてテークバックできることで大人気となった2ボールパターも、数々の規制を受けたわけですが、その極め付けはトゥからヒールまでの長さが、フェースからバックフェースまでの長さよりも、長くなければならないというルールです。
当時バックフェースの長いパターヘッドは2ボールタイプくらいのものでしたから、まさに狙い撃ちのルール改正だったわけです。
パターヘッドの長さをルール改正した結果、なんでもありに?
このようなパターのルール改正が行われたことで、人気の出たニューパターは次々と潰されるようになってきます。
折りしも2ボールタイプの変化形となるネオマレット型パターが全盛となってきていました。
相まってトゥからヒールまでの間隔がそれまでよりも長い、いわゆるデカヘッドのパターが注目されるようになります。
フェースの横幅が広いほど、スクエアでセットしやすくなります。
そのためプロアマを問わず注目されるわけですが、ここで抜本的な規定を設けることとなったのです。
そもそもクラブヘッドは、「シンプルな形状でなくてはならない」とルールで定められていたのですが、パターヘッドは例外的に認めてきたものを、明文化して規定することとしたのです。
改正の概要はフェースの長さは7インチ以下、奥行きはフェースの2/3以内、フェースの高さは2.5インチ以下としたものです。
現行のパターが認められる規定が制定されたことで、よりネオマレット型のパターは先鋭化されていくこととなります。
パターのルール改正はプレーの長さが焦点になってくる?
繰り返し行われていたパターのルール改正は落ち着くこととなったわけですが、今度はプレー時間の長さが問題となります。
プロの試合ではグリーン上でパッティングラインを読むために、相当の時間をかけていたのですが、それが良い行為であるとアマにも広がり、スロープレーが目立つようになります。
そこでプレーの時間をルールで定めることになりますが、パターに与えられた時間は40秒です。
この40秒はリミットであり、持ち時間ではありません。
プロの場合には1打のペナルティのほかに罰金が科せられます。
女子プロでは2020年米ツアー初参戦の河本結がスロープレーで5千ドル(約55万円)の罰金を支払うこととなりました。
ちなみに彼女の組は1ラウンド4時間以内でラウンドしていたのにもかかわらず、2つのホールでのプレーの遅延という理由だそうです。
さらに男子プロはその10倍の5万ドル(約550万円)の罰金が科せられることが決まっています。
おそらくターゲットとなっているのは、1打のパッティングに数分間かけるブライソン・デシャンボーだと思われます。
結果的に彼のスロープレーによって、多くの選手に制限が及ぶことになったわけですが、当の本人は「40秒は私に与えられた時間だ」と時間をたっぷり使うことを宣言しています。
今後しばらくはパターの形状よりもプレースタイルについて、ルールの改正が行われていくものと思われます。
現行のルールでパターの長さといえば時間なのかもしれない
パターの長さはルールによって18インチ以上と定められていますが、上限は決まっていません。
ただし後付でアンカリング禁止のルールが制定されたことで、実質上は使用価値が薄れてしまったわけです。
このように形状ばかりではなく、構え方やプレー時間など、さまざまな規定が盛り込まれてしまったのが、現行のパターのルールなのです。