「ゴルフにあった服装をすることがマナー」だと教えられた記憶があると思います。
ゴルフ場によっては、ドレスコードを設けてジーパンやTシャツ姿を認めないところがある一方で、Tシャツ姿でもプレーができるコースもあるのをご存知ですか。
歴史を振り返りながら服装のマナーについて考えていきます。
ゴルフの服装にジーパンやTシャツを認めない理由
ゴルフには野球やサッカーのようなユニフォームはないので、個人で好みのものを着ることができます。
好きなものといっても、ゴルファーとしてふさわしいと思われるものという条件付きでありますが、ほかのスポーツに比べると比較的服装の自由度は高いと言えるのではないでしょうか。
自由度が高いとは言ってもNGな服装はあります。
基本的にはハウス内(屋内)とコース(屋外)によって分かれますが、べ-スとなっているのは「ジェントルマン」であることです。
日本では「紳士」と訳されることが多いようですが、服装に関してはまさにジェントルマン(支配階級の貴族)でなければならないので、使用人(労働者)的な服装はNGとされています。
そのため往時の使用人が着用していたジーパンやTシャツは、いまもゴルファーの服装としては認めない傾向にあります。
これはドレスコードがあってもなくてもダメなものとされていて、しかも理由は「ジェントルマンの服装ではない」と誰かが決めたことが伝統となっています。
ゴルフでのTシャツは価値観の違う人達の服装だった
往時のジェントルマンとは地主貴族のことだったようで、極わずかな人達しかいませんでした。
ところが時代が進むと、政治家や医師、弁護士などの専門職の人達の中にもジェントルマンとして認めるようになります。
これは門地を広げてジェントルマンの枠を拡大したのではなく、地主貴族の次男や三男がその職業についたからで、要は皆仲間と認めるに値する人物だったわけです。
もともとの家柄によって、ジェントルマン同様のマナーや教養を身につけていましたから、その後は同じ価値観を持つ人達を「紳士」として受け入れるようになっていきます。
もちろんその価値観の中には、ジーパンやTシャツなどの服装が入るわけはありません。
まして使用人と一緒にゴルフを楽しむなんてことはなかったのでしょう。
ゴルフは限られた人達の楽しみであり、さらに倶楽部は細分化された閉鎖的なものだったために、独自にインナールールを作っていきます。
下層階級(庶民)の人々は、自分も同じ価値観をもって仲間に入りたいと思ったのでしょう。
結果的に閉鎖的なインナールールが最高級のマナーとして受け入れられることになります。
ゴルフ場の服装規定でTシャツを排除する意義はあるのか?
閉鎖的な楽しみだったゴルフは、いつしかスポーツとなります。
いまでこそアマチュアゴルファーは、プロゴルファーに敬意を表していますが、少し前までは倶楽部ハウスのレストランを利用するには支配人の許可が必要でした。
ゴルフ場はジェントルマンが利用するところで、プロゴルファーは仲間ではないという感覚が強かったのかもしれません。
さすがに現在はそんなゴルフ場は極わずかです。
しかし、ないわけではありません。
あのマスターズの会場オーガスタは、帯同するキャディは使用人としてツナギ以外の服装は認めていませんし、クラブハウスの利用もNGです。
自由の国アメリカと言えど、名門ゴルフ場は厳しい内規を設定しています。
2012年外圧に屈して女性不可のオーガスタも、元国務長官のライス氏が入会することになって全世界にニュースが配信されたほどショッキングな出来事となるほどだったのです。
いまでは不条理なことと思うかもしれませんが、往時のジーパンやTシャツは、現在の社会で問題視されている女性蔑視や肌の色への区分と同じところから派生したものと考えられています。
アメリカンスタイルのゴルフ場ではTシャツの服装規定がない
TシャツでもOKという服装規定を設けていないゴルフ場のことを、「アメリカンスタイル」と呼んでいます。
「自由と平等」を標榜するアメリカにちなんだ区分名称ですが、実際のアメリカ国内でのプライベート倶楽部は閉鎖的なインナールールを定めています。
超がつく大金持ちの会員が、ゆったりラウンドできる人数だけしか入会を認めていないところはたくさんあって、それぞれが独自のルールを定めています。
そんなゴルフ場ではゴルフが1つのツールでしかなく、倶楽部での会話や食事などを気の合う仲間と楽しむことを重んじています。
日本のようにメンバー制を謳っていても、ビジターが同じくらいラウンドしているのとは明らかに運営の仕方が違っています。
しかしアメリカ人ゴルファーが、皆大金持ちとは限りません。
我々日本人同様にスポーツとして楽しむ人達にとっては、倶楽部ライフは迷惑なものと感じている場合があります。
そこで純然たるプレーのみを楽しむゴルフ場では、規定を設けずに自由な服装でプレーをできるようにしていて、それがTシャツでも注意を受けないだけで、あえて推奨しているわけではないようです。
ゴルフ場の服装規定で女性がTシャツを着れないのは変!
歴史を振り返ると女性が倶楽部に入会できるようになったのは、かなり最近のことです。
ゴルフが発祥したころは男女ともに楽しんだという記録もあるので、女性だからプレーができないと言うことはありませんでした。
ところが多くのゴルフ場が倶楽部制になると、規約で女性に会員資格を与えなかったのです。
これは日本だけではなく世界的な慣習でもあって、徐々に女性ゴルファーは少なくなっていきます。
ですから女性の服装については、あとから作ったものなので、誰がどんな理由で定めたのかは良く分かっていません。
ワンピースの多くは丸首なのに、襟付きが正しい服装であるといったドレスコードなどは、不思議以外のなにものでもないでしょう。
現代では女性もジャケットを着る時代にはなりましたが、ジャケットの下に丸首のシャツを着ていたらNG、ましてTシャツは完全にアウトと言われています。
男性労働者の下着姿からTシャツがダメになったのだとしたら、女性がTシャツを下着とした時代はあったのでしょうか?
男性とのバランスで決められたのが、現在の女性に対する服装規定と考えられます。
高機能の長袖Tシャツでもゴルフ場は服装規定で排除する
本来の服装規定は倶楽部が決めるものなので、固定した顧客となる会員が不快に思うようなら、Tシャツ以外でも禁止にすることはありえます。
少し前になりますが、Tシャツでもなく下着でもない高機能シャツを、下着と同類として禁止して話題となったことがあります。
短距離やマラソンなどの国際競技で使用しているシャツは、暑さや寒さを防ぐ効果を持ち合わせていて、筋肉にとっても非常に良いと言われたものです。
実際に多くのプロゴルファーが使用していたのにもかかわらず、個々のゴルフ倶楽部は下着と判定して、見えない工夫をしなければ認めないと規定しています。
常識で考えれば、時代からズレた判断とも言えますが、倶楽部を運営する会員の声が優先されるのが会員制のゴルフ場なのです。
禁止と決めているゴルフ場に、高機能の素材の特性を説明しても無駄です。
もともとTシャツをダメとした理由に差別があるのですから、「現代社会では認められない!」と言っても無駄なことなのかもしれません。
ゴルフ界も時代の流れでTシャツ姿の服装を認めるときは来る
ゴルフ場での服装には、自分で判断する「マナー」と、ゴルフ場が決める「ドレスコード」があります。
マナーは固定された利用者に配慮する慣習的なものですが、ドレスコードはゴルフ場が決まりとして告知しているものです。
どちらもジーパンやTシャツを認めているわけではありませんが、いずれは悪しき慣習として改善されていくのではないでしょうか。