近代ゴルフの発祥はスコットランドなので、一般的にゴルフ用語は英語でできています。
でも英語を得意としない日本人にとっては、漢字に変えて日本人が理解できるゴルフ用語を造り出してきました。
そんなゴルフの歴史を漢字に焦点をあてて見ていきたいと思います。
ゴルフの起源は漢字表記に隠されている?
近代ゴルフの発祥地はスコットランドですが、起源は世界各国にあるようです。
スコットランドの牧童がモグラの穴に石ころを落として楽しんでいたという常説から、中国が”元”と称していたころ発祥したという説もあります。
今ではオランダで楽しまれたゲーム「コルフェ」ではないかと言うのが有力なようです。
ただ中国のゴルフ「捶丸(チュイワン)」については、日本の史記である古事記にも載っているので、まったくのフェイクではないような気がします。
ちなみに現在の漢字表記は「孔球(だきゅう)」です。
ほかにも孔球とおなじ読みの「打球」も併用されていますが、起源となる意味が若干異なります。
「打球」はスコットランドの牧童が石ころを打ったことが起源になると思いますが、「孔球」は鳥を表したものなので、水鳥の羽を丸めてボールにしていたオランダのコルフェが起源になるかもしれません。
ちなみにバーディーは小鳥(隼)、イーグルは鷲、アルバトロスはアホウドリですから、もしかすると漢字の表記がゴルフの起源解明の手掛かりになるかもしれませんね。
漢字表記のゴルフ用語は戦争が原因で広まった?
そもそも日本におけるゴルフは神戸の六甲で始まりました。
ゴルフ経験のない英国人らと、留学を契機にすっかりゴルフに魅了された日本人がゴルフコースを造ったのは1901年のことです。
英国人が中心なので当然のごとく英語で会話していましたから、日本語表記は必要ありませんでした。
と言うよりも当時の日本人は正規会員にはなれず、数名だけが名誉会員として参加したので、日本語自体が必要なかったわけです。
六甲を皮切りに全国各地にゴルフコースができましたが、当時の日本人にはゲームする(楽しむ)ことと勝負する(勝敗をつける)ことの違いが理解できずに、勝ちにこだわる貴人の娯楽となったわけです。
そんな娯楽が一変することになったのは戦争中に厳しく取り締まられた「敵性語」です。ゴルフや野球など海外から入ってきたスポーツは、ことごとく日本語、漢字で表記することが義務付けられたわけです。
そのときゴルフは、例の孔雀の羽根を球にして操るスポーツになったようです。
ゴルフ用語に漢字を取り入れたことで親しみが湧く
日本でゴルフが発祥したのは明治初期でしたが、そのころ日本の気候は亜熱帯気候でゴルフに使用される芝の育成に不向きでした。
今では高級グリーンとなっているサンドグリーンですが、初期のコースはどこもサンドグリーンだったわけです。
粒子の細かい川砂を平らに押し固めて、その上からタールを塗ることで雨でも崩れないグリーンを造っていたわけです。
一方でスコットランドと同じような気候をもつ、東北・北海道ではグラスグリーンが造られるようになり、また関東以南でも国産芝でも対応できる高麗芝のグリーンが造られるようになります。
このころ新しい言葉が次々に生まれ、日本独特のゴルフ用語が使用されるようになります。
例えばホールをカップと呼ぶようになりましたし、カップに挿してあるピンは本来ピンフラッグ(旗竿)ですが、いまでも「旗を抜く」が一般的に使われています。
先人がゴルフ用語に敢えて漢字を入れたことで、英語を解さない日本人にとって親しみやすくなったこともあって、スコットランド発のゴルフは日本国内で新しいスポーツとして発展していくことになります。
ゴルフ用語を漢字で書くと格式が高くなる?
日本のゴルフでは常識、世界では非常識というのがいくつかあります。
そのひとつが「芝面を保護するためスルー・ザ・グリーンは6吋(インチ)プレース」です。
ちなみに「スルー・ザ・グリーン」と表記して、インチを漢字の「吋」で表記するのは、倶楽部の伝統や重みを表す裁定に含みを持たせているのかもしれませんね。
一般的には「6吋」は、ゴルフ場もしくは倶楽部の委員会が設定した臨時ローカルルールです。
天候などの事由で芝面が荒れてボールを拾い上げて移動できる、いわゆるタッチプレーと呼ばれるものですが、これが日本人には違和感のないルールとして大半のゴルフ場で掲示していると思います。
本来はプレーに支障が出るからタッチプレーをするのであって、それは前夜の大雨とかの特別な要件に限られるべきです。
ところが「芝面を保護する」という目的でタッチプレーをルールにするのは、世界のゴルファーから異質と思われても仕方ないかもしれません。
ゴルフは「あるがままの状態」でプレーすることが面白いのであって、良いスコアであがることは二の次なのです。
日本にゴルフが根付くときに楽しむことよりも勝敗にこだわったことが根源にあるのでしょうか。
「コースコンディションが悪いからスコアが……」と言われないよう、ゴルフ場がプレイヤーの成績を忖度したことが6吋ルールの原因だと思います。
ブービー賞は日本独自のもの
日本型のゴルフ用語でもっとも日本人らしいと思えるのが、コンペなどのプライベート競技で使われている「ブービー賞」です。
ブービー賞は、競技会の参加者の中で、最下位から2番目の人に贈るのが慣例化されています。
これは技量をともなわない参加者にも受賞のチャンスがあるように配慮したものです。
もっとも幹事役も広く参加者を募集できるメリットがあるようで、中には優勝に次ぐ賞品を用意していることもあるほどです。
つまり参加者を増やす役目を担ったのが日本型のブービー賞と言うことになります。
一方で最下位の1つ上の順位をブービーにしているのは日本だけです。
もともとはブービーは最下位に贈る賞で、その意味は「バカ」「マヌケ」といった揶揄する意味を含んだものです。
なぜそんな汚い言葉が浸透したかと言うと、最下位のプレイヤーは受賞時に「ゴルファーとは」と優勝者を超える徳のあるスピーチをして、技量よりもジェントルマンであることがもっとも大切なことだと説いていたようです。
大叩きしたものが話すことで、一同は大笑いしながら楽しんだと言うことが、後日お洒落に感じて広まったそうですが、ブービーは賞ではないので漢字の「賞」はつかないのが一般的です。
ゴルフ界をリードする新しい漢字表記ができるかも
ゴルフで気になる漢字と言えば「倶楽部」です。
ゴルフに限らずクラブを漢字で表記しているところはたくさんあります。
もちろん語源は英語の「CLUB」ですが、日本では初期からこの倶楽部という漢字が使われています。
そもそもCLUBという文化が日本に入ってきたのは明治初期です。
CLUBを「共に楽しむ仲間」と解して、当てた字が倶楽部だそうです。
『倶=共に、楽=楽しむ、部=仲間・集団』と言われています。
そもそも社交倶楽部のようなものだったわけですが、実はこの倶楽部の一部が日本で最初に造られたゴルフ場「六甲」だったのです。
同じころ政財界の社交場は鹿鳴館を会場にしていた『東京倶楽部』が有名ですが、最初は外国人のために造られたゴルフ倶楽部が発祥だったと言ってもいいと思います。
ゴルフに関連する漢字の表記については、ゴルフの伝統を受け継いでいるものと、日本でアレンジしたものの2通りがあるようです。
アレンジしたものであれば今後も新しい言葉が造られていくかもしれませんね。
漢字表記よりもカタカナ表記が気になる
日本でしか使わないゴルフ用語に「アゲンスト」があります。
今では政財界でも使われる日常用語として、強力な向かい風を表す言葉は浸透しています。
また「スライス」や「ナイスショット」も日本的な表現で、海外で使われることはないと思います。
漢字表記もさることながら、カタカナ表記もそろそろ考え直しても良いかもしれませんね。