岡本綾子プロの奥の深いシンプルなスイング理論を探求

最終更新日:2017/09/15

米国を中心に活躍した岡本綾子プロと言えば「シンプルなゴルフ」や「スクエアなスイング」が有名で、一般ゴルファーはもちろんのこと、プロゴルファーの中でもそのスイング理論を参考にした人が多いようです。

そこで、改めてシンプルなゴルフの奥の深さについて確認していきたいと思います。

岡本綾子のスイング理論はシンプルなゴルフからスタート

日本女子プロゴルフ界を牽引してきた岡本綾子プロ、世界への道しるべを立てた偉大なプロゴルファーとして、多くのゴルフファンから絶大な支持を得ています。
特に米国を中心とした海外での活躍は、その後の宮里藍選手を始めとする多くの後輩たちに多大な影響を与えたレジェンドでもあります。

そんな彼女のスイング理論の元となっているのは「スクエアなインパクト」にあります。
元々岡本綾子は野球・ソフトボールの経験を持つ選手で、いわゆるハードヒッターとして名を馳せますが、その頃は「飛ぶけどブレる」といった安定性にかけるコースマネジメントをしていました。

それなりの実績もありましたが、トッププロとしてはフェアウェイをキープできず、結果が伴わない戦績となっていた時代もありました。
たぶんそれをカバーするためにより近くで短いクラブを使う、当時の男子プロの中では当たり前となっていた更なる飛距離を求めたのだと思います。

しかし結果は腰を痛めての戦線離脱ということになります。

腰痛はゴルファーの職業病のようなもので、いまほど吸収力のあるシューズではなかった上、コースはカチカチで腰や膝への負担は大きなものがありました。

腰を痛めた選手には「引退」の2文字がちらつく時代でしたが、岡本綾子は腰の負担のないシンプルなゴルフで再チャレンジする道を選ぶことになります。

岡本綾子のスイング理論はグリップの位置から始まる

腰を痛めた岡本綾子は、ハードヒッターからスクエアなインパクトを重視するシンプルなゴルフ理論へと変わります。

無駄な動きを排除して、引きやすいグリップ位置から、スムーズなテークバックで体重を移動し、左肩を十分に外転させて、スクエアなフェースでボールを捉えるスイングを目指すことになりました。

一連の動きを簡単に記すとこんな感じですが、ちょっと分かりにくいので各動きに分けて確認していきます。

まずは引きやすいグリップ位置です。
岡本綾子のスイング理論にはインパクトのときのフェースの向きが重要になります。

ターゲットとボールを結ぶ飛球線に対して、フェース面が直角になることをスクエアと言いますが、インパクトでは確実にスクエアにすることにこだわります。
そのためにはスクエアに構えて、その形でインパクトすることが、もっともシンプルだと考えたわけです。

岡本綾子のグリップはハンドファーストです。
左足の腿の前でグリップを握り、そこからテークバックします。
グリップを中央で構えたときよりも、左腿からのほうが右側に引くための距離があるので、身体を捻転しながらヘッドを引く動作をしなくても済みます。

このグリップの位置がスムーズにスイングするための最初のポイントだったわけです。

岡本綾子のスイング理論が実感できるポイントは脇腹にある

次は自然な形でヘッドを引くことができるテークバックです。
身体の左にグリックを構えたので、ヘッドの移動距離が長くなり、その動きに合わせて体重も移動することになります。

ヘッドが右に動くのと同時に左肩も連動して外転を始めます。
身体の中心(軸)の左側にあった左肩が、身体の中心に移動するということは、左側の体重が失われることになります。
つまり左上半身の体重は右側に移動したことになります。
その体重を受けるために、右腰を引いて右足の上に乗せようとします。

ここで大事なことは2つです。

1つ目は、右足よりも外側に体重が逃げないこと、つまり右サイドに壁を作ることです。
ただし岡本綾子のスイングは、壁を意識するのではなく、あくまでも捻転を意識することで上体が流れないようにしています。

2つ目は、左脇腹に痛みを感じるくらいの捻転をイメージすることです。
単に体重を右側に移動するのではなく、捻転した結果右足の上に体重が乗っただけです。
岡本綾子は「脇腹が痛いと感じたときスイング理論が成功している」と思っていたそうです。
自然な動きの中で体重を移動するテークバックで、身体に負担のかからない捻転が可能になります。

岡本綾子のスイング理論と実際のスイングが違っている?

ハンドファーストで構えて十分に捻転するテークバックですが、インパクトするための動きはトップからのダウンスイングです。
肝心なことはダウンスイングの先にあるスクエアなインパクトにあります。

ここで唯一、岡本綾子は自身のスイング理論と実際のスイングの違いに気がつきます。

スムーズなテークバックで十分に捻転したのはパワーを溜めるため、そのパワーはダウンスイングで余計な動きを排除することに繋がるはずです。
ところが岡本綾子は、トップの位置でレイド・クロス・トップになっているわけです。

トップの位置でシャフトが飛球線とクロス(交差)しています。
この症状では手首が甲側に折れて左側にヘッドが見える状態になるクロス・シャフト・オーバースイングのケースになることが多くなります。
岡本綾子はオーバースイングとまでは行きませんが、トップの位置でシャフトがクロスしています。

一般的にシャフトがクロスしているときは、ダウンスイングでアウトサイドインのスイングプレーンになることが多く、スクエアなインパクトは難しくなります。
ましてシンプルなスイング理論を主張する岡本綾子が、トップでシャフトをクロスさせるのは理にかなっているとはいい難いものがあります。

ただこのスイング理論をたてたとき、まだクラブはパーシモンの時代で、ヘッドはもちろんのこと、クラブの総重量も今とは比較できないほど重かったことが理由かもしれません。

ソフトボールの選手とはいえ、シャフトの先にあるヘッドの重みに耐えかねてグリップが緩み、それが癖になったのかもと想像することはできますが、実はこの無駄な動きにも意味があったようです。

スイング理論を確実にする岡本綾子の腰の動きがポイント!

シャフトがクロスしたトップの位置からダウンスイングを開始します。

岡本綾子のスイング理論によると、ダウンスイングでは右側に置いた体重を左側に移動します。
単純に左側に移動すると、クラブが右側にあるため腰から上が右側に傾いて、腰だけが先行するダウンスイングになってしまいます。

本来は右側から左側に移動すると同時にクラブが移動すればよいのですが、実際には動きの速いダウンスイング中で腰が移動すると、インパクトのタイミングを合わせるのが難しいと考えたようです。

そこでダウスイングを始動すると同時に腰を開きます。
トップのときは左腰も軽く回っていますが、ダウンスイングに移る時点でインパクトを迎える位置、つまりアドレスしたときに戻してしまいます。

スイングでは左肩・左腕・左手首、そしてシャフト・ヘッドが一体になるように振り下ろしますが、腰を先に開いているのでグリップが遅れてくるイメージでスイングしているのは岡本綾子のスイング理論のポイントとなるところです。

ちなみに左腰を開くことは大事ですが、もっと大事なことは右腰を出さないことです。
ダウンスイングで右腰を出すと、右肩が出てしまうアウトサイドインのスイングになり、結果的にスクエアなインパクトができなくなるからです。

岡本綾子のスイング理論を実践すればスランプに陥らない

岡本綾子のスイング理論でもっとも重要なのは、スクエアなインパクトにあります。

そこで大事なことは構えたとき同じ姿勢であること、実際のスイングでみると腕とシャフトの内角であるアームシャフト角を140度に保つことを大事にしています。

この角度を保つことで、無理なダウンスイングをしなくてもヘッドが走り、飛距離を望めるインパクトが可能になります。
しかも懸案であった腰への負担もなく、スムーズなスイングが可能となったわけです。

ちなみに岡本綾子は、このスイング理論を実践してからスランプがなかったと自身でコメントを出していますが、それはこのスイング理論がすべて正しかったからではなく、修正法を知っていたからだと推測できます。

岡本綾子がもっとも恐れたショットはドローボール、いわゆるフックだったと言います。
一般的にフックボールになるのは、右手主導のスイングになったときと言われています。岡本綾子はトップの位置でシャフトがクロスするほど右手の力を緩めているのに、それでもフックが出るのはインパクトのときに、右手親指がオーバー・ザ・トップになっているからと考えたようです。

その症状が出たときは、グリップを少し下げるハンドダウンで構えています。
グリップの時点で意識的にコックを作り、左手甲を飛球線に対してスクエアに振り抜くことで、飛距離を落とさずに、しかもスイングプレーンを変えることなく修正することができたようです。

違和感をすぐに察知して修正できること、シンプルなスイングだからこそ可能だったということだと思います。

岡本綾子にしかできない奥の深いスイング理論?

多くのゴルファーが憧れた岡本綾子プロのスイング理論ですが、実際に真似をしてうまく自分のものにした人に出会ったことはないとも言われる、奥の深いスイング法です。

延長線上には丸山茂樹プロや宮里藍プロなどがいると言われていますが、それはスクエアにフェースを合わせることが目的のスイングだったからとも考えられます。

実際には、岡本綾子のスイングは岡本綾子にしかできないのかもしれません。