神の領域とも言われるタイガーウッズのゴルフスイングですが、それはタイガーが出現したことでコースの距離が伸びたとか、クラブやボールに規制が強まったなんて、小さなことだけではありません。
もっと広い視野でタイガーが求めた理想のスイングについて確認していきたいと思います。
タイガーウッズのゴルフスイングで伝統的な世界を変えた
タイガーウッズが世界の頂点にたったのはずっと昔のこと、今では予選さえ通らないネームだけが先行するプロゴルファーになっています。
タイガーウッズのゴルフスイングの魅力は規格外の飛距離にあります。
タイガーウッズがマスターズ初出場したとき、パー5の15番ホールのセカンドで、ピッチングを握ったことで、その後のゴルフ界を変えていくことになります。
いわゆるタイガー仕様のコースがメジャーの標準的なレイアウトとなり、各ゴルフメーカーは「飛ぶクラブ」「飛ぶボール」を開発し続けることになったのです。
現在のレイアウトは全長が7000ヤードを超え、ティーショットを邪魔するフェアウェイバンカーは270ヤード~300ヤード付近にあることも珍しくなくなってきました。
さらにフェアウェイの幅はグリーンのサイズと同じくらいで、300ヤード先のグリーンにワンオンできるレベルが、トーナメントで勝ち残っていくために必要となっています。
オーガスタでは何度となく距離延長の改修工事を行ってきましたが、これ以上の距離が必要であれば、マスターズ仕様のボール(飛ばないボール)を採用するところまで、プレイヤーは進化を続けてきたのです。
先駆的なゴルファータイガーウッズのゴルフスイングとは
一流のプロゴルファーにはゴルフスイングをチェックするコーチと、精神面をケアするメンタルサポートと、さらに身体をケアするためのトレーナーがついているものです。
ところがタイガーウッズにとって、スイングコーチは自身を納得させるためのパートナーではあっても、信頼できるアドバイザーではなくなっていたのではないでしょうか。
不調に陥る少し前、世界中で彼よりもすばらしいゴルファーはいないと自分自身で感じていたのかもしれません。
それは技術論とかではなく、先駆的なゴルファーと言う意味です。
ゴルフコースの距離を長くして道具を飛ばないように規制をかけたのは、タイガーウッズが出現したからであって、もちろん想定外の飛距離は伝統的なコースであってもレイアウトも変えなければならないほどでした。
つまりタイガーウッズはそれまでのゴルフの歴史を変えた人物なのです。
そのタイガーウッズにはゴルファーとしての実績もありますが、技量や理論においても十分に蓄積されたものを持ち合わせています。
そのためコーチのチェックがなければ自分のスイングができないレベルではなかったはずです。
つまり、名コーチから離れたことがスイング悪化の原因と言うことではなく、もっと別な理由があったのでしょう。
タイガーウッズのゴルフスイングが壊れた理由とは
では何が原因でスイングが壊れていったのでしょう。
そもそもタイガーウッズのスイングのどこに問題があるかを確認する必要があります。
もともとタイガーウッズのスイングプレーンはフラットでしたが、徐々に縦振りになっていったように見えます。
ただ正確にいうと、テークバックのスイングプレーンとダウンスイングのスイングプレーンには違いがあり、当初のタイガーウッズはこのギャップが少なかっただけなのです。
テークバックではグリップを縦に引きますが、ダウンスイングでは横振りになるのが一般的です。
ところがタイガーウッズは最初からダウンスイングのスイングプレーンで、低いテークバックをしていたわけです。
理にかなった再現性を求めたスイングは、強いダウンブローでしかもミート率の高いインパクトが可能になります。
ただし、一方でスイングを支える膝への負担に耐えなければならないという、無限ループから抜け出すことができなくなるのです。
2プレーンのゴルフスイングがマッチしないタイガーウッズ
タイガーウッズはもともと1プレーンでスイングしていたのに、テークバックを縦振りにしたことで2プレーンのスイングに変更してしまいます。
2プレーンにするとトップの位置で両肘は右肩の上にあります。
その状態でダウンスイングすると、両肩と腕で作る三角形は最大限のパワーで振り下ろしますが、ここで大事なポイントは縦振りを意識してもスイングプレーンがアウトサイドインにならないことです。
アウトサイドインになるのはボールに向かって両腕を振り下ろすからで、実際には右サイドに向かって振っていくことで横振りになり2プレーンの軌道になるわけです。
それなのにタイガーウッズはダイレクトにボールに向かって振り下ろしていくために、スクエアなフェースを保つことができず、方向性が安定しないインパクトを続けることになります。
結果的にマッチしないことで自信のないゴルフスイングで戦うことになり、タイガーウッズの混迷は深まるばかりとなっていきます。
タイガーウッズが望んだ2プレーンのゴルフスイングが失敗
2プレーンを追求するのであれば、右肘の位置が重要なポイントになります。
急激に振り下ろすイメージでダウンスイングをすると、姿勢は「く」の字に曲がり、上体は右側に傾くことになります。
このとき右肘が右腰まで降りてくると2プレーンのゴルフスイングは失敗です。
もっと早くに右肘を開放することで、右腕の力を出し切るようにすべきなのです。
パワーだけでみると、右腕はテークバックでなんの役にも立っていません。
トップの位置から下りてきても肘が90度になるまで、クラブヘッドの力を与えることはできないのが普通です。
一般的にはグリップが右腿まで来たときに、ヘッドスピードが上がりパワーを伝えることができます。
ところが右肘が下がると、右腿に来るべきグリップが右肘になり、しかも右肩が前に出てくることになります。
実際にはわずかな変化ですが、タイガーウッズが望むスクエアなインパクトが遠のく原因となっています。
タイガーウッズが1プレーンのゴルフスイングに戻した理由
混迷するタイガーウッズのゴルフスイングですが、結論から言うと1プレーンに戻すようです。
我々が見慣れた長身のタイガーウッズが、短く見えるクラブを担ぎ上げてスイングしている姿から、テークバックとダウンスイングを一緒のものにすることに決めたようです。
実はタイガーウッズの初期の頃のゴルフスイングは1プレーンだったのです。
ただ戦績を重ねるうちに、ドロー系のボールよりもフェード系のボールのほうが有利であることを理解していきます。
またフェード系でも飛距離を伸ばしている選手がいることで、自身のスイングスタイルも徐々にフェード系へと変えることとなります。
結果、185センチを超える長身のタイガーウッズは、44.5インチという短いクラブでゴルフスイングを試みることになり、更なる飛距離を手に入れることになります。
ただ残念ながらこのスイングに変更したことで、タイガーウッズの膝の故障の大きな原因のひとつとなったはずです。
ちなみに誰もが史上最強の男と認めるベン・ホーガンは、ダウンスイングで右肘を身体の前にすることで、ヘッドをトップの位置から変えずに振り下ろすことで、スクエアなインパクトができると考えたようです。
そのベン・ホーガンが理想としたスイングを体現しようとして失敗したタイガーウッズ、原点回帰の今後のスイングに期待したいと思います。
タイガーウッズのゴルフスイングは神の領域
タイガーウッズが行き着いた先は、シンプルな1プレーンのゴルフスイングでした。
2プレーンは飛距離を求めることはできますが、フェースがオープンになり、それを修正するためにインパクトの直前で右手を返す必要があります。
タイガーウッズほどの速いゴルフスイングになると、そのタイミングはまさに神の領域なのかもしれません。