ゴルフスイングには手首の柔軟な運動が必要不可欠です。
また、手首の誤った使い方はミスが出るばかりか関節周囲の組織を痛める可能性があります。
ここでは正しい手首の使い方と、手首を柔らかくする方法について解説していきます。
ゴルフスイングに必要な手首の運動
ゴルフスイングには手首(手関節)の運動がとても重要です。
手首を柔らかくする方法を解説する前に、まずは手首がどのように運動するのかを見ていきます。
手関節の形状を楕円関節といい、グルングルンと回す運動ができます。
このうち、手のひら方向に曲げることを掌屈(しょうくつ)、手の甲側に曲げることを背屈(はいくつ)、親指側に曲げることを橈屈(とうくつ)、小指側に曲げることを尺屈(しゃっくつ)と言い、グルングルン回すことを分回し運動と言います。
通常、掌屈の可動域は90度、背屈の可動域は70度、橈屈の可動域は25度、尺屈の可動域は55度です。
スイングに必要な手首(手関節)の運動ですが、コックとリリースが挙げられます。
よく、本来肘関節が担うはずのアームローテーションや、肩関節が担うはずの内外旋運動を手首の運動と勘違いされる方もみえますが、手首の運動は基本的にコックとリリースしかありません。
コックは手関節橈屈運動で、リリースは手関節尺屈運動になります。
最近はトップのポジションでクラブをクロスさせないレイドオフが主流になっているため、右手を背屈位、左手を掌屈位に保持しているプロゴルファーがたくさん見えます。
ただし、この掌屈と背屈の運動はミスショットにつながりやすく、なるべくそのポジションを保つことが基本で、可動域はそれほど必要ありません。
つまり、ゴルフに必要な手首の運動は親指側と小指側に合わせて90度動けば良いということになります。
クラブを手首の運動だけで寝かせたり立たせたりして、90度動くか試してください。
初心者に多い誤ったリリースポイント
手首の可動域が橈屈と尺屈を合わせて90度で良いのに、なぜ手首を柔らかくする方法が必要なのかというと、手首の運動はヘッドスピードと大きく関係しているからです。
プロゴルファーのダウンスイングとアマチュアゴルファーのダウンスイングを比較すると、プロはクラブを立てて下ろしてくるのに対し、アマはクラブを寝かせて下ろしてきます。
これをアーリーリリースと言います。
アーリーリリースはクラブのしなり戻りが小さくなり、ヘッドスピードが遅くなります。
また、ロフト角も大きくなってしまうため、ボールが高く上がり過ぎたりスピン量が多くなり飛距離が出ません。
アーリーリリースはダウンスイング初期に起こります。
多くのアマチュアゴルファーがトップでコックを最大にするため、その反動でリリースが起こることが考えられます。
テイクバックが速ければ速いほど、その傾向が強くミスにつながります。
ハーフスイングは良いのにフルスイングだと調子が悪いという方は、一度トップのポジションでスイングを止めてみてください。
ハーフスイングはピタリと止まっても、フルスイングでは止められないと思います。
アーリーリリースを手首で無理やり直してはいけない理由
アーリーリリースに気づいても、これを手首の運動だけで無理やり直してはいけません。
アーリーリリースの原因はトップの位置で急激にコックしてしまうこと、テイクバックのスピードが速いこと、骨盤と胸郭の捻転差が少ないこと、さらにはアームローテーションの概念が無いことなどによるもので、手首のリリースを我慢するだけでは直りません。
正面から動画で撮影すると、一見手首だけの問題に見えますが、多くのアマチュアに骨盤(股関節)の回旋が遅れることがよく分かります。
今回は手首を柔らかくする方法を紹介しますが、必ずしもコックをする必要はありませんし、手首が柔らかければアーリーリリースが直るというわけではありません。
手首を柔らかくする方法はアーリーリリースの改善方法のひとつですが、第一の目的はあくまでも障害の予防です。
とくに手関節尺側にある三角線維軟骨複合体(TFCC )損傷は致命的です。
これによってたくさんのプロゴルファーが引退を余儀なくされました。
手首を柔らかくする方法を正しく覚えてTFCC損傷を予防
手首の柔軟性がない理由としては、アウターマッスルが過剰に緊張していることによります。
前腕(肘から手首まで)を触ってみてください。
力を抜いているのに硬くなっている人は過剰に緊張している証拠です。
内側が硬い人は前腕屈筋群、外側が硬い人は前腕伸筋群が緊張しています。
習慣的にストレッチをすることでこれらを柔軟に保つことが肝要です。
前腕屈筋群のストレッチは伸ばしたい方の腕の掌を天井に向け、反対の手で指をつかみ、肘を伸ばして手首を反らすと伸ばせます。
一方、前腕伸筋群のストレッチは伸ばしたい方の腕は卵を持つように軽く握ります。
反対の手で包み込むようにして、肘を伸ばして掌屈してくると伸ばせます。
さらに、親指を曲げる長母指屈筋(ちょうぼしくっきん)も伸ばしておきましょう。
肘を曲げ、伸ばしたい方の腕の掌を天井に向けます。
反対の手で親指だけを下から握り、引き下げると伸ばせます。
このようにして手首を柔らかくする方法でTFCC損傷を予防しましょう。
手首を柔らかくする方法の嬉しい副作用その1
さて、手首を柔らかくする方法で紹介した3種類のストレッチですが、なんとゴルファーに多い肘の痛みまで予防できます。
ゴルフ肘(野球肘)というのを聞いたことがあるかと思いますが、これは肘の内側が痛くなることを言います。
前腕屈筋群の過緊張により付着部である内側上顆(ないそくじょうか)に炎症を起こします。
一方、肘の外側が痛くなることをテニス肘と言います。
前腕伸筋群の過緊張により付着部である外側上顆(がいそくじょうか)に炎症を起こします。
おもしろいことに、ゴルファーではゴルフ肘よりもテニス肘の方が多いという報告があります。
いずれにしても、前腕のアウターマッスルの過緊張が痛みの原因につながるということは手首の場合と同じです。
手首を柔らかくする方法は、実は肘の痛みも予防できる一石二鳥の方法なのです。
手首を柔らかくする方法の嬉しい副作用その2
さらに驚きなのは、TFCC損傷、ゴルフ肘、テニス肘の予防だけでなく、前腕のアウターマッスルをストレッチしておくことで、チーピンやダフリ、トップなどのミスの予防にもなるということです。
プロゴルファーはアマチュアゴルファーに比較して、スイング中のグリッププレッシャーが一定であることが報告されています。
アマチュアゴルファーはインパクトの瞬間に強く握りすぎる傾向があるということです。
この握るというという動作こそ前腕のアウターマッスルの作用なのです。
そして、握るという動作はクラブのヘッドの運動を変化させてしまいます。
とくにフェースがクローズしてしまうことは多くの方が経験していることだと思います。
つまり、前腕屈筋群および前腕伸筋群のストレッチをしておくことで、これらの過緊張を防ぎ、ミスショットの確率を減らせると考えられます。
このように、手首を柔らかくする方法は、関節疾患の予防だけでなくミスショットの予防にもつながる一石三鳥の方法と言えるでしょう。
手首のストレッチを毎日の習慣にしましょう
手首を柔らかくする方法として前腕屈筋群と前腕伸筋群のストレッチを紹介いたしました。
このストレッチがTFCC損傷、ゴルフ肘、テニス肘などの関節疾患だけでなく、チーピンなどのミスショットの予防にもなるとてもお得な方法であるということでした。
ただし、ストレッチとは単発で行うよりも習慣的に行った方が効果が高くなるものです。
ゴルフの前だからと言って、その時だけ行うのではなく、ラウンド中やラウンド後、日々の生活の中でもしっかり伸ばす習慣をつけておくとなお効果的と言えます。